きっかけは一杯のコーヒー。コーヒーの世界に飛び込んで、気づけばお店と仲間がいた|ライトアップコーヒー代表 川野優馬さん
おいしいコーヒーで毎日を明るく照らしたい。そんな想いから名付けられたLIGHT UP COFFEE(ライトアップコーヒー)は、吉祥寺や下北沢に店舗を構えるコーヒーブランドだ。ブランド立ち上げから9年目の今、ライトアップコーヒーは日本中のコーヒー好きに愛されるブランドになりつつある。その理由は、きっと味の美味しさだけでなく、それを生み出す人たちの熱い想いが伝わっているからではないだろうか。
今回は、そのライトアップコーヒーの代表である川野優馬さんに、仕事への向き合い方や人生に対する価値観などについてお話を聞かせていただいた。
今の仕事がつまらない、やりたい仕事が分からない。そんなキャリアの悩みを抱える人が、心の底からやりたいと思える仕事を見つけるために、「自分にとって仕事とは何か」「どのように仕事を選べばいいのか」「どのようなことを意識、行動すればいいのか」ヒントを見つけるインタビューである。
目の前で描かれたラテアートがはじまり
「自分がワクワクするものを見つけたら、迷わず行動するようにしています」と、目を輝かせながら語る川野さん。その姿からは言葉通り、自分のワクワクへ向かって、今にも飛び出していきそうな勢いが感じられる。
「やってみないとわからないことだらけだから、考える時間ってもったいないと思うんです。悩んでるなら、絶対やってみた方がいい。
僕がコーヒーに魅了されたのは大学生の時。目の前で描かれたラテアートの美しさに感動したことがきっかけでした。その後、UCC全国大会ラテアートバトル2012で優勝。様々なコーヒーを飲み続けるうちに、コーヒー豆そのものが持つ個性豊かな味わいや、一杯のコーヒーのために情熱を注ぐ人たちの姿を知り、気づいた時には自分もコーヒーの世界に飛び込んでいたんです」
コーヒーに自分のワクワクを見つけた川野さん。その後の行動は驚くほど早かった。まずは「自分で美味しいコーヒー豆を焼きたい」という情熱から、焙煎機を購入。1年ほどかけて焙煎を繰り返し、その焙煎した豆を持ってヨーロッパの有名ロースターを巡ったというのだ。旅を通して味覚を鍛え、帰国後、大学生ながら吉祥寺にライトアップコーヒーの1号店をオープンさせる。
「最初は美味しいコーヒーが作りたい!という衝動的な気持ちで走り出しましたが、実際に店舗を持って、自分で焙煎したコーヒーをお客様に飲んでもらって、それを仕事にすることが面白いと気づいたんです。結果として、あの時感じた自分のワクワクを大切にして、迷わずすぐ動き出してよかったと思いますね」
会社員時代に学んだこと
今では“コーヒーの人”として有名な川野さんだが、そんな彼も以前は会社員だった経験がある。
「大学卒業後は、ライトアップコーヒーの運営をしつつ、新卒でリクルートに入社しました。正直、自分のお店のことが気になって、ずっとうずうずしていた気がしますが、絶対に後で巻き返せると信じ、1年半ほど勤めました。今振り返って思うのは、就職という選択をしてよかったということ。
例えばリクルートでは、『これをやりたい!』という情熱を『なんでやりたいのか?』という論理に変えてから行動するように言われるんです。なぜの理由によっては、タスクの優先度も変わってきますよね。だから、情熱を論理にして動かすことはとても重要で、そういう根本的な仕事の進め方を、お給料をもらいながら学べました。
僕は仕事というのは新しく価値を生み出すことだと考えている。だから、『消費して楽しい』というステップから『生み出して楽しい』というステップに行く必要があると思うんです。自分の興味や情熱はもちろん大切ですが、それにプラスして『なぜ』を考える癖がつけられたなら、目の前の仕事だけでなくその先のキャリアを築く上でも役立つ気がします」
得意なことに力を発揮できるようになってきた
会社員と並行してライトアップコーヒーの運営を行っていた川野さん。会社を辞めた時は、「やっと自分のお店に専念できる!」と思いきや、自分で自分のタスクやメンタルを上手にコントロールできるようになるまでには、かなりの時間を費やしたという。
「会社員時代は上司がタスク管理をしてくれていましたが、自分だけとなるとやるべきことが多すぎでパンクしたり、逆に暇すぎてどうしようと焦ったり。最初は、目の前のことをがむしゃらにやっていましたが、会社員時代に優先順位をつける癖をつけておいたおかげで、少しずつ『やらないこと』を決められるようにもなってきたと思います。
2014年7月にライトアップコーヒーを始めてから一緒に働くメンバーも増え、気づけば今年で9年。生豆の買い付けや焙煎、給料の振り込みといった様々な業務を役割分担でき『自分にしかできない仕事はこれだ!』と絞れるようになった気がします。僕の主な仕事はお店を運営することですが、最近は事業計画を立てたり、新しい店舗のコンセプトを考えたり。バリスタさんの採用や、YouTube、noteといったSNSでの発信にも注力できています」
自分が一番輝ける仕事は、人によって様々。それぞれ得意なことに注力できれば、自分も相手もよりよい仕事ができるに違いない。川野さん自身、自分が一番バリューを発揮できるのは、新しいアイデアを出している時だと言う。一体そのアイデアは、どのようにして生み出されているのだろうか?
「ライフ・ワークバランスという言葉をよく耳にしますが、僕はライフとワークが分かれていないタイプだから、バランスをとるというよりも、むしろライフの中にワークが含まれていると思っていて。仕事は人生を楽しむためにやるもので、その人生の中に、少しでも幸せな仕事の時間が増えると嬉しいなと考えています。一方で、休んでいる時も何かしら仕事のことを考えてしまうので、意識的に『無』になる時間を作るようにしているんです。
例えば、僕は温泉に入るのが大好き。ランニングやサウナ、美味しいものを食べるとかでもよいです。温泉に入っている時、僕は『無』になって、一度自分の頭と心を空っぽにすることができる。『無』になった方が、新しいアイデアがふわーっと浮かんでくるし、自分の考えや気持ちを客観視できるんですよね。
最近は文章を書くのも好きで、そうやって浮かんできたアイデアを忘れないよう、すぐに言葉にして残すようにしています。自分の考えを吐き出して、頭も心も空にする。そうすると、今度はその空になった場所に新しいものが入ってくる。その循環に気づいたので、今では積極的にアウトプットするようにしています」
「ライトアップコーヒーを始めた時は『店』だったものが、今では一緒に働くメンバーも増え『会社』という意識に変わってきました。その中で、今の自分が特に意識しているのは『みんなが楽しいと思える会社にする』ということ。ここ数年は、一人ひとりの声を直接聞き、そこで意見が出てくれば改善する、ということを繰り返しています。一緒に仕事をするからには、みんなには楽しく働いてほしいですし、そんなみんなの姿を見てるだけで僕も楽しい気持ちになれるので!
それと、仕事をするようになって気づいたのは、結局自分1人でできることって限られていて、いろんな人のおかげで全て回っているんだなということ。1人でコーヒーを飲んでいる時よりも、みんなで飲んでいる時の方が発見が多いように、自分だけじゃ気づかない感覚を人からもらって、今の自分があると思うんです。他の人の存在によって、自分の人生はよりおもしろくなる。だから僕は、人の意志や情熱というものを一番大切にしたいと思っています」
言葉にして動き出せば、見える景色が変わる
最初は、コーヒーという「もの」への興味から始まった川野さんのワクワク。今では生産者さんや一緒に働くメンバーといった「人」にまで広がりを見せていることが伝わってくる。
そんな川野さんに「天職が見つからない」「まだ自分のワクワクに出会えていない」という人はどうすればいいか聞いてみた。
「例えば、何か1つでもよいから好きだと思えたり、心が動くものを思い浮かべてみる。景色がいいとか、山の中で食べるご飯が美味しいとか。これをやっている自分は楽しいなと思えるコトでもいい。少しでも興味が持てそうだと思えるものは、その人にとって大切な『ワクワクの種』だから。そしてその種に対して『やってみよう』という気持ちでまずは向き合ってみてほしいです。実際にやってみないと、わからないことだらけですからね。
そしてもし自分のワクワクが見つかったなら、次はそれを言葉にして発信してみてください。声に出すことで、有言実行というか、言ったからにはやるしかないという状況になるんですよね。きっと、今まで僕がいい人たちに巡り会えてきたのって、その時の僕が、がむしゃらに前に進もうとしていたからだと思うんです。悶々と考えてる人に手は差し伸べられにくくて、がむしゃらに動いている人の方が、人と巡り会う機会も増えますし応援されやすい。だからワクワクが見つかったなら、今度は迷わず言葉にして、動き出してみるといい。動き出したら、その先に見える景色も変わってくるはずですから」
そう熱をこめて話す川野さんの目は、エネルギーに満ち溢れている。
会社員時代があったからこそ鍛えられた、情熱を論理に変える力。そして、論理を行動に移し続ける持ち前のフットワークの軽さ。川野さんのお話からは、そんなキャリアの原動力がうかがえた。
ワクワクの種を見つけるために、自分の心と向き合ってみる。これかもと思えたら、まずはやってみる。やってみたら、今度は深く考えてみる。そんな心持ちでいることから始めてみるのがいいのかも。
川野さんの仕事観、そして9年間のキャリアは私たちに働く情熱や大切なことを思い出させてくれる。
LIGHT UP COFFEE(ライトアップコーヒー)代表 / 川野 優馬
大学在学中にコーヒーの魅力に取り憑かれ、UCC全国大会ラテアートバトル2012で優勝。その後シングルオリジンコーヒーと出会い自家焙煎をはじめ、おいしいコーヒーで世界を明るくする「LIGHT UP COFFEE」を吉祥寺にオープン。店舗を経営する傍ら、株式会社リクルートホールディングスに就職しUXデザイナーとして1年半勤務した後、株式会社ライトアップコーヒーを設立、下北沢店をオープン。経営者兼バリスタとして働く。美味しいコーヒー作りに貢献しようと、バリ島やベトナムでコーヒー生産も行っている。