未来を切り拓く「リスキリング」とは?時代に合った新たなスキルを手に入れて、働き方の選択肢を広げよう
昨年政府が示した「リスキリングに対して5年で1兆円を投資する」という方針をきっかけに、いま「リスキリング」に注目が集まっています。
英語で書くと「Reskilling」。
「skill(スキル)」というフレーズが入っているので、スキルに関する何かと推測できますが、それって学び直し?スキルアップとは何が違うの?とよくわからない方も多いのではないでしょうか。
そこで今回は、一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブ代表理事の後藤宗明さんに、リスキリングの本来の意味や、具体的な実践方法などについてお話を聞いてみました!
「スキルアップ」でも「学び直し」でもない
リスキリングとは「新しい業務や職種につくために、スキルを習得する」こと。「スキルアップ」や「リカレント教育」、「学び直し」とも取れますが、実はそれぞれ別の意味を持ちます。
「スキルアップ」は、たとえば経理部で働く従業員が、レベルアップのためにより専門的な経理スキルを身につけることを指します。これは日常的によくありますよね。
「リカレント教育」は、いわば生涯学習。一定期間働いた後に、学校で学び直す…仕事と学びが並行しているわけではないんです。何を学ぶかは個人の自由で、学んだ知見を仕事に活用しない場合もあるでしょう。
一方、会社や組織が事業戦略に基づいて、社員に学びの機会を与え、磨いたスキルを会社で発揮してもらうのがリスキリングです。「事業戦略に基づいて…」というとなんだか難しく感じるかもしれませんが、たとえば「DX(デジタルトランスフォーメーション)」、すなわちデジタル化もリスキリングで注目を浴びている分野です。
海外のアパレルメーカーがコロナ禍のおりに、仕事が減ったお店の接客スタッフにWebマーケティングなどデータサイエンティストになるためのスキルを学んでもらう機会を与えました。店舗販売と比較して、ネット通販は成長分野のため、そこでも活躍できる人材を育て、通販での売上拡大を狙ったのです。
オーストラリアのバス会社では、整備士たちがEV車の整備もできるようリスキリングを実施。EV車の整備ができる人材は市場価値が高く、さまざまな場所や国で活躍できる人材へと成長し、市場の拡大に貢献しました。
これは企業の「GX(グリーントランスフォーメーション)」戦略に基づいたもの。温室効果ガスを抑制するグリーンエネルギーへの転換は、未来志向の事業戦略の一つ。将来の事業に対応できる人材を今のうちに育てておくという方針でしょう。
いずれのケースもポイントは、学びを“就業時間内”に実施している点です。「帰宅後や土日にオンライン講座を見てね!」という個人に委ねるスタイルは、就業時間外なので会社としては強制ができません。
リスキリングは将来への備え
ポジションや給与を上げるためには、スキルを身に付け、市場価値の高い人材になっていくことが大切です。業種によっては、今後AIやデジタルの浸透で人の手を介さなくなる仕事が出るなかで、労働者として生き残るためにリスキリングが必要になってくるかもしれません。
将来のビジョンが明確になく、スキル習得に積極的になれない方もいると思いますが、リスキリングを行うと、「仕事の幅を広げたい」「今の会社で昇給・昇格したい」「転職したい」と思ったときに非常に実現しやすくなります。
「自分の職種×デジタル」で、自分に合うスキルを見つけよう
会社や組織の主導のもとに実施されるのが理想的なリスキリングですが、実は「新しい業務や職種につくために、スキルを習得する」という前提のもと、各々でスキル習得を目指すこともできます。
まずやってほしいのは、「現状」の棚卸し。
◎自分が今もっているスキルや長所を把握する
持っているスキルや得意なことを書き出してみましょう。「苦手をなくす」よりも「強みを生かす」ほうが得てして高い価値を生み出します。
◎会社に貢献していることを知る
客観視が難しければ、上司や同僚に得意なことや強みを聞いてみましょう。
◎やりたいこと、将来のなりたい姿を考えてみる
今の気持ちはもちろん、過去に「やりたい」と考えていたことも書き出してみてください。
きちんと棚卸ししたうえで、進む方向性を定めていきましょう。オススメの方法は培ってきた自分のスキルや強みと、先ほど述べた「DX」を掛け合わせてみること。
「DX」すなわちデジタル化でいえば、広告業界で働いているなら「アドテック」、金融なら「フィンテック」、法務部門なら「リーガルテック」、営業なら「セールステック」などです。
今後は宇宙産業分野(※2)のサービスやプロダクト制作などのスキルも、需要が増えてくるでしょう。成長分野と自ら培ったスキルを“掛け算”して、未来に向けて何を学ぶべきかぜひ考えてみてください。
そして“継続するコツ”は、仲間と一緒に取り組むこと。これはダイエットや一般的な習い事と同じかもしれません。
リスキリングは1カ月などの短期間で身につくものばかりではなく、スキルによっては1年以上を要するものもあります。その際、同じ方向を見据えてがんばる仲間がいると心強いですよ。ただ、途中で「向いてないな」と感じたら、軌道修正しても大丈夫。実際にやってみるまで「向き・不向き」はわからないものですから。
スキルを発揮できる環境づくりを
企業が就業時間内に学びの機会を作り、得たスキルを発揮できるよう社内にポジションや業務を用意。一定の成果を出せば、給与や評価に還元される…これこそが「リスキリングを推進している企業」の本来在るべき姿だと思います。海外では魅力的なリスキリング制度を導入していないと良い人材が確保できない風潮もすでにありますが、残念ながら日本ではまだそこまで浸透していません。
新たなスキルを身につけたけれど実務で発揮する機会がない…。そんな場合は「自ら機会をつくる」提案をしてみましょう。
スキルが活かせそうな部門への異動を申請したり、IT部門に頼らず自らの部門にテックツールの導入を提案するといったことも、1つのきっかけになります。もちろんそれも難しいようなら、転職や副業を視野に入れるのもいいと思います。
リスキリングの経験が、転職の武器に
皆さんの中には、転職活動中の方もいるでしょう。「自分がいかに成長できるか」という軸を持って会社選びをしている方は、「リスキリングに積極的かどうか」という観点からもじっくり見てみることをおすすめします。
リスキリングに積極的な企業は、経営者や役員自らがリスキリングに取り組んだり、社内に制度を設けていたりします。時代に応じて事業を変革していく必要性を感じているからこそであり、そうした企業は従業員の学びに対しても積極的です。面接で「御社では就業時間内にリスキリング・学びの機会はありますか?」と直接聞いてみるのも1つの手でしょう。
今後、企業が“生存戦略の要”としてリスキリングに力を入れ始める一方で、転職する側にとっても“リスキリングの経験”は大きなアピールポイントになります。イギリスでは、コロナ禍においてリスキリングを実践した人は全体の40%というデータも出ているようです。
リスキリング経験者は、「未来に向けて準備ができている人」と言い換えられます。社会の変化に対しての「適応力」や、成果が出るまで時間がかかりますから「継続力」や「目標達成能力」が備わっている証しにもなります。
ぜひ積極的に、「新たなスキル」と「発揮できる環境」を探しつつ、会社選びにも役立ててみてください。
リスキリングで賃金が上がるのか? 経験者の昇給は1割にとどまる
https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/13/
※1 リスキリングの調査結果はこちら
https://tenshoku.mynavi.jp/knowhow/careertrend/13/
※2 「宇宙の仕事」はこちらからも探せます。https://meetscareer.tenshoku.mynavi.jp/archive/category/%E5%AE%87%E5%AE%99%E3%81%AE%E4%BB%95%E4%BA%8B%E8%BE%9E%E5%85%B8
マイナビ転職note 編集部