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新ブランドを立ち上げた先で。世界で戦ったマーケターが選んだ次のステップは総合商社だった|総合商社勤務 藤田悟さん【後編】
新卒で日本ロレアルに入社した藤田悟(ふじたさとる)さん。日本市場のマーケティングを経験後、資生堂に転職し、日焼け止めのイノベーションやZ世代向けスキンケアブランドの立ち上げを手掛けた。
外資系から日系化粧品メーカーに転職し、キャリアを伸ばしてきた藤田さんだが、2024年秋、新たに総合商社に転職。彼は何を思い、次のステップとして総合商社を選んだのだろうか。
今回は藤田さんに「マーケティングの魅力」、そして「スキルアップの心掛け」など、キャリア構築に役立つヒントを伺いたいと思う。
日焼け止めの商品開発を通して気づいた、イノベーションの種の見つけ方
「2社目となる資生堂に転職して、最初に配属された先はスキンケアCoE部 (センターオブエクセレンス部)。そこでのミッションは人々のニーズや体験に重きをおいたイノベーションを起こすことを通じて、未来の事業の種をたくさん見つけ事業化させることと、全社に新しいイノベーションの在り方を浸透させることの2つ。そのなかで自分はスキンケアの未来で事業化できそうなものを探す仕事をメインで任されていました。
1年半ほどCoE部にいて特に自分にとって大きな糧になったと感じるのは、日焼け止めの未来を考えていたときのこと。肌を守るために、SPFの数値を上げること以外でできることはないか? そのアイデアを得るために、常に外的刺激にさらされているようなハンディキャップのある方々に直接ヒアリングをしにいく機会があったんです。
たくさんの方にお話を聞いた結果、多くの方が自身のハンディキャップを新しいエネルギーに変えていることを知り、日焼け止めの世界でも外的刺激をエナジーとして活用できないものかと考えるようになりました。
この考えを研究者にぶつけてみたことで新しく生まれたのが、いわゆる “紫外線を浴びればスキンケアできる日焼け止め” でした。これまで生まれるきっかけがなかっただけで、実はそのような技術はすでに存在していたんです。特に日本は製造業に強い歴史があり、機能中心のイノベーションでも高いクオリティで世界で勝つことができてきました。
ただ、テクノロジーが発展して消費者が自ら数多の情報を手に入れ、商品を選択する現代では、人中心のイノベーションが不可欠です。化粧品業界内外を問わず、実際の生活者を見つめて消費者が求めていることを理解し、市場で求められているものを創造するデザイン思考を身をもって経験できたのは、とても大きな経験でした」
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念願叶い “0→1” を経験。19年ぶりとなる新メンズスキンケアブランドを立ち上げる
「CoE部の次に配属された先は経営戦略部。前職のマーケティング経験から、BAUM(バウム)ブランドのコミュニケーション戦略とメンズスキンケアブランド立ち上げの兼務となりました。
SIDEKICK(サイドキック)の立ち上げに集中するためローンチ直前にブランドを離れることになり、BAUMは半年ほどで離れてしまったのですが、初めてブランドのターゲットと自分が近い存在だったので、やっていてアイデアも思い浮かぶし、楽しかったですね。マーケティングの世界に足を踏み入れるときは、自分と親和性の高い商材から始めるのをおすすめします(笑)。
SIDEKICKのブランド開発時は、市場、ターゲットの年齢層、商品の価格帯などを考えながら、自社が持つブランドのポートフォリオのなかで、穴が空いている部分を埋めていくことでした。解決策としては、ブランドを新しく作るか、買収するか、既にあるブランドを別ラインに移動させるかの3つ。そこで僕は、19年ぶりとなる新しいメンズスキンケアブランド “SIDEKICK” の立ち上げにブランド開発責任者として関わることができたんです。
キックオフからブランドローンチまでは丸3年かかりましたが、今振り返ってみても本当に大変だったなと思います。まずはターゲットを絞り込むところから始め、そのなかでもマーケットが最も伸びていた中国の20代が目に留まったので、実際に現地の若者たちの声を直接聞きにいきました。その後はブランドの名前や戦略、商品のコンセプトを考えたり、パッケージのデザインや委託製造先を検討したり。
もちろんどのように効果的にお客さまに商品を届けるかというコミュニケーション戦略についても考えながら、とにかく手を動かし続ける多忙な毎日でしたね。ターゲットに近いと思い、早稲田大学広告研究会の学生とゲームセンターをコンセプトにしたイベントなども実施してきました。
やはりここでも自分のモチベーションになったのは、『やり切らないと何も残らない』という強い反骨心。壁にぶち当たっても自分自身がやり切るしかないと強く思っていた一方で、僕自身の叶えたい未来に共感し、応援し続けてくれた人たちの存在も大きかったと感じます。
自分自身の成し遂げたいことと、それが実現することで起こる相手にとって喜ばしいこと。その2つが重なれば重なるほど相手は自分の味方になってくれると思っていたので、社内や社外の人たちと同じ目標に向かって一緒に走れるようにするためにも、物事の伝え方は常に意識するようにしていました。自分のやりたいことだけを押し通すのではなく、どうしたら相手がモチベーション高く動いてくれるのかを考え伝えること。これこそが味方を増やすためのポイントなのかもしれません」
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将来成し遂げたいゴールを描くことで、今の自分に必要なスキルが見えてくる
転職を経て、就活生の頃から目標にしていた新ブランド立ち上げに関わることができた藤田さん。スキルアップやキャリアアップのために心掛けていたことはあったのだろうか。
「新しいスキルを得たり、キャリアアップをしたいと考えたりする方は少なくないですが、やみくもにそのとき流行っているものや手に入れやすいものに飛びつくのではなく、自分がそのスキルを得た先にいったい何が待っているのかをよくよく考えることが大切だと思います。自分は常日頃から、最終的に成し遂げたいゴールに向かうために『今の自分は何のスキルを身に付けなくてはいけないのか?』ということを逆算して考えるように心掛けていました。
自分の場合は転職や異動を経験しながら、目標にしていた0→1の仕事につながるまでのすべてのプロセスを少しずつ段階を踏みながら学んでいきました。今までになかった新しいブランドやプロダクトを生み出したいという大きなゴールが決まっていたので、今の自分が得なくてはいけないスキルや知識を迷わず選び取ることができたんですよね。
なので今悩んでいる方に言えるとしたら、『いつか自分はこの場所に行かなくてはならない』という最終目的地に向かって進むこと。そうすれば数年後にはきっと自分に必要なスキルとともに、成長したあなたがそこに立っているのではないでしょうか」
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マーケター以外の道を探す。経営的視点を得るために選んだ次のステップは総合商社だった
実は最近2度目の転職を終え、現在は総合商社で働く藤田さん。化粧品メーカーからなぜ総合商社に転職することを決めたのか。
「もちろん自分にとってマーケティングの仕事は大学時代から夢見ていたものであり、今でも好きで楽しい仕事です。でも、周りの友人たちがより広い世界で挑戦し活躍している姿を見ると、もしかすると自分の人生には『マーケター以外の道もあるのでは』と、描いてきた最終目的地が違うかもしれないという思いも浮かんできました。
自分のビジネス戦闘力をもっと上げるためにも、次は経営的視点を身に付けたいと思い、事業投資を積極的に行う総合商社でなら、会社を成長させていくノウハウも学べるはずだと信じて転職を決めました。
もともと海外で仕事をしたい気持ちはありましたし、いつかはマーケティングの域に留まらず国内外のビジネスを牽引できるような人材になりたいとも思っている。
なのでこれからはまた新しい環境で、新しく見つけた目標のために1から頑張りたいですね。とは言いつつも『やっぱりマーケが好きだ!』と再発見する可能性もあると思っているので、その答え合わせもできたら嬉しいです」
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最後に、藤田さんにとって仕事とは何かを尋ねてみる。
「そもそも自分は “仕事のための人生” ではなく “人生のための仕事” だと思っているので、
人生単位で大切にしたいと思うものを守れる範囲のなかでチャレンジをすると決めているんです。なので、例えば自分にとって大切な存在である家族や友人と話すとき、自分自身のアイデンティティを仕事を通して示して、僕を見て何かを感じてくれたら嬉しいです。
それにイキイキと仕事をしている人って、見ているこちら側までも良い気分になるじゃないですか。僕は人が生きる理由は後世に何かを残すことだと思っているから。一生懸命頑張っている人の姿が、周りで見ている誰かのモチベーションにつながっているとするならば、それもひとつの何かの残し方ではないかなと思います」
自分の成し遂げたいことはなんなのか。そのゴールさえ見失わなければ、自分に必要なスキルも明確になり、着実にスキルアップしていくことができるはず。
新しく見つけた目標に向かって歩き続ける藤田さんは、この先いったいどんな未来に辿り着くのだろうか。いつか答え合わせができる日を楽しみに、私たちもそれぞれの道で歩みを進めてみようと思う。
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総合商社勤務 | 藤田悟さん
1991年生まれ。2015年に新卒で日本ロレアル株式会社に入社。日本市場のマーケティングを経験した後、ブランド開発を行うため資生堂へ。入社後は、日焼け止めのイノベーションプロジェクトに携わり、その後BAUM(バウム)、SIDEKICK(サイドキック)などのブランドの立ち上げに携わる。約10年間のマーケティング経験の後、現在は総合商社に勤務。
※こちらの記事は2024年10月29日時点の取材をもとに作成されたものです。
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マーケティング(企画)の仕事
https://tenshoku.mynavi.jp/sp/topkwex20/?src=note
化粧品に関する仕事
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